長沼ゲストハウスポエティカ
沢の上に建つ「橋」としてのいえ
ここでは、風が吹いてくるのではなく、わたってきます。
空と海の記憶をのせて。水と土の便りをのせて。
白樺たちとおしゃべりしながら、ゆっくり、ゆっくりと。
人と人が出会い、音と音が奏で合い、思いと思いが通い合う。
そんな空気と時間があふれています。
|
敷地内に建つ自宅においてかねてから音楽会やパーティーなどさまざまなイベントを行っている医師が今回のお施主様です。最近では50名ものお客様が集まることもあり自宅だけでは手狭であること、また作曲家やお琴の師範をされている子供さん達の音楽活動の拠点として機能する空間が必要ということから、このゲストハウスが計画されました。
|
|
長沼町幌内の西下がりの丘陵地であるこの敷地には、法尻に80uの池と沢を有する高低差3mの法面と、西側に群生する白樺の自生林をはじめとするたくさんの木々があります。この敷地のもつ最大の特性である水の流れと豊かな緑を残しながら、あたかも「橋」の上に住んでいるような雰囲気を作りだすことを目指して、敷地の高い方に平屋、低い方に2階建てのボックスを配置し、これらのボックスを繋ぎながら沢を跨ぐブリッジを渡しました。
オーナーのご家族は既存住宅側から出入りしますが、招かれたお客様は敷地西端に設けた駐車場から白樺林の間を抜けて、建物の北側に設けられたアプローチ空間に入ります。沢を渡り、枕木の階段を登り建物内部へ入ると、そこは浮遊感のあるブリッジの床がそのまま2階建てのボックスに挿入されることで生まれた30畳のホールです。ブリッジに設けられた地窓からはステージをもつ池とそこに反射した光が、正面の吹き抜け越しの大開口からは今歩いてきた白樺林の緑がお客様を優しく迎えます。2階建ての1階部分はオーナー家族のためのプライベートスペース兼イベント関係の出演者の楽屋・宿泊室として利用されます。吹き抜けの下から大開口越しに望む星空はまさに閑かな音楽を想起させるでしょう。
また今回の建築は、周辺環境との呼応、素材感、内部の空気環境などさまざまな要件から、構造から仕上げに至るまですべてを木で造ることをもう一つの大きなテーマとしています。過度な造り込みをしないシンプルな空間に支えられたそれぞれのシーンが、一つの大きな流れのうちに緩やかに結ばれたとき詩的な風景や物語が生まれることを願ってこの建築は、途上の家で素晴らしい朗誦を聴かせて下さった川手鷹彦氏により「ポエティカ」と命名されました。
|